一般家庭ではまったく無縁でも、スピーカーとして「大音響再生」を必要とする用途があります。現在のような小型携帯無線機がない時代には、航空母艦から飛び立つ飛行機のプロペラ音の大騒音下で、発信を整備員に指示する情報伝達用として大音響PAスピーカーが使用されていました。

 近年では、宇宙空間へ飛んでいく人工衛星のロケットの発射音のシミュレーション音声を作るためのスピーカーなどもあります。再生能力は音圧にして160dB/mで、音響出力で10,000Wクラスの大音量再生用です。

 人工衛星に搭載する各種の電子機器や制御機器は、発射から大気圏内(音の伝搬する時間的範囲)ではロケットエンジンの大音量にさらされて、大きく振動したり共振したりして破損や断線が生じ、故障の原因になることがあるため、これを地上でシミュレーションして対策や検査するために、こういった「音として限界の域」の試験設備が必要になります。

これに使用するスピーカーは1936年ころから電気音響変換機をして提案されていた「気流形スピーカー」が適しています。動作原理は、電気信号によって駆動されたボイスコイルに付けられた空気弁のスリットの開閉によって、一定の流速をもった空気の流れに変調を与え、音響として音を発生するものです。小さい電気信号の入力で大きい音響出力が得られ、見かけ上非常に変換効率が高く、100%以上の効率を持っています。実際には一定の空気流を作るための圧縮ポンプと空気溜めなどが必要で設備も大きくなります。

 基本構成は、空気圧搾機や駆動アンプなどがあり、気流を変える空気弁を駆動する電気音響変換機としては古くは電磁形もありましたが、今日ではダイナミック形が採用されております。性能としては、低音用ではカットオフ周波数20Hzの大型ホーンに結合して20Hz以上を再生、中・高音用もホーンと組み合わせて5,000Hzまでの周波数を再生し、4,000Wで音圧レベル160dB/m(音響出力10,000W)を再生する最大級のものがあります。